大正製薬
セルフメディケーション臨床開発部
グループマネージャー

藤田 透

Profile

大正製薬
セルフメディケーション臨床開発部

多田 静乃

Profile

安全性も有効性も、自信を持って届けるために

セルフメディケーション臨床開発部の役割について教えてください

藤田

製品開発においてヒトのエビデンス全般を取り扱う部署で、製剤設計部署が開発した製剤を製品として世の中に出すために、安全性や有効性を実際にヒトで確かめる臨床試験の推進が主な役割です。
コンセプトを実証するために、どのようなヒトに対してどのような試験が必要かを検討し、試験計画を組み立て、医療機関や専門機関で臨床試験を実施いただきます。

多田

ヒト試験の実施にあたっては、試験実施計画書をはじめ、問題なく実施できるか否かを倫理性や科学性の観点から審査する試験審査委員会に提出する資料など、書類作成業務も多く発生します。化粧品の場合は地方自治体への届出のみとなりますが、厚生労働大臣の販売許可が必要な医薬品や薬用化粧品の場合は、承認申請のための書類を作成するとともに承認審査機関からの質問事項にも対応します。
また、試験の推進のために、論文を読み込んだり、専門機関にアドバイスを求めたりといったことも大切な業務。当社が医薬品の外用剤開発を通してつながりを深めてきた皮膚科の先生と共同で臨床研究を進めることもあります。

申請の必要がない化粧品も必ず臨床試験を行うのでしょうか?

多田

基礎研究や製剤研究でも安全性や有効性の評価を行っていますが、ヒトに使用して安全なのか?ヒトでも効果実感があるのか?などは仮説のようなもの。お客さまが安全に使用でき、本当に満足いただけるものだけをお届けするために、医薬品や薬用化粧品だけではなく化粧品であっても必ずヒトでの安全性や有効性を確かめますし、当社独自のかなり厳しい評価基準を設定しています。また実際にご使用いただき、使用感や満足度などヒトにおける反応を確かめて、はじめて自信を持って世に出すことができます。

藤田

大正製薬は、化粧品開発においてチャレンジャー的立場。多くの製品や情報がひしめく市場で、当社品を手に取ってもらえるか否かは、どれだけ独自技術や機能を製品に込められるかに掛かっているといえます。そのため、データで裏づけられたエビデンスは大きな武器になり得ます。
化粧品の広告ではルールが厳格に定められており、安全性や効能効果に関する臨床データを示すことはできません。それでもヒトで評価する目的の1つは、自らが設定した仮説を客観的に確かめること。品質がデータとして可視化されることで社内の士気も上がりますし、お客さまに自信を持ってお勧めすることができます。

新しいニーズを満たす世の中にない製品を

医薬品の臨床試験と化粧品の臨床試験では、どのような違いがありますか?

多田

医薬品では臨床試験を含む臨床開発期間として5年10年かかることもありますが、化粧品は多くの場合数ヶ月~1年程度と費やす期間がまったく異なります。発売時期も決まっているため、逆算して試験のスケジュールを組む必要もあります。
また医薬品は申請に必要なデータや評価指標が定まっているケースが多いですが、申請を伴わない化粧品は実施する試験内容の自由度が高いため、あらゆる角度から検討しながら試験を組み立てます。

藤田

医薬品は治すという普遍的な価値を提供するものなので、トレンドの変化に左右されづらいとも考えられますが、化粧品は短いスパンでトレンドが移り変わるため、常に先を見据えていないと乗り遅れてしまいます。次々とコンセプトを立案して製品化に向けて動き、場合によっては進めていた案件を止めたり、変更したりといったことも。スピード感と臨機応変さが求められる分野です。

化粧品の臨床試験で苦労したことはありますか?

多田

新たなメカニズムに基づいたスキンケア製剤の臨床試験を担当したのですが、期待される機能を評価する適切な手法がなく、有効性の立証には苦労しました。
例えばツヤや透明感は、個人の感覚による部分が大きいことに加えて評価の手法も確立していないため、客観的な数値での評価が難しい効果。試験方法を規定するガイドラインもありません。様々な文献を調べ、こういった結果が出ればツヤや透明感が立証できるのではないかという仮説を立て、評価に使用する機器の選定も含めて試験を組み立てました。目で見た印象も重要ですが、客観的な数値で示すことでデータの説得力も増すため、数値で結果を出せる方法をできる限り探るようにしています。

藤田

基礎研究や製剤研究でも厳しく評価しているため、ヒトで実施する臨床試験の段階まで安全性に大きく問題のある製剤が上がってくる可能性は非常に低いです。一方で有効性に関しては、細胞レベルの薬理評価では良好な結果が出ても、ヒトでの評価で結果が出ない場合も。大正製薬が独自に設定している評価基準を満たさず、製品化を見送った例も少なくありません。
先ほどもお話したように化粧品市場ではチャレンジャーになるので、既にある製品との差別化要素がなければ世に出す意味はない。客観的に厳しく評価することで、魅力が際立つ製品だけをお届けできると思っています。

製薬会社ならではの魅力や品質をどう伝えるか

臨床開発部員にはどのようなスキルやマインドが必要ですか?

多田

期待した結果が出ないこともありますが、ダメだったとそこで終わりにするのではなく、個々のデータの推移を見ながらヒントが隠れていないか考え抜く根気強さ。同時に、世の中に溢れている様々な情報の中から必要な情報を学びとり、科学的に正しい評価へとつなげる調査力も必要だと感じています。
化粧品は医薬品に比べて作用が緩和なので、はっきりとした結果が出づらいという難しさも。そのため、仮説設定と検証を繰り返しながら、諦めずに製品化を目指せるマインドも重要です。

多田

課題が生じた際、即座に多様な角度から検証できる広い視野や知識というのも大切な要素。
大正製薬が扱う領域は医薬品、医薬部外品、食品、化粧品と多岐に渡り、臨床開発部では各研究員が化粧品だけでなくそれらをオールマイティに担当しています。化粧品の臨床試験には医薬品での経験が活きることも多く、製薬会社ならではの強みではないでしょうか。

大正製薬の美容分野研究で大切にしていることは何ですか?

多田

研究に基づき安全性や有効性を確認したものしか世に出さないという姿勢、そこから生まれた製品は自信を持ってお勧めできるものばかりです。しかしどんなに優れた製品でも、その魅力をお客さまに伝えることができなければ意味がありません。その一端を担うのが臨床開発。試験を組み立てる際は、どういったデータなら興味を持ってもらえるかといったマーケティング的視点も持つようにしています。
自社発信の広告だけでなく、インフルエンサーがSNSで発した一言で一気に認知されるなど今は製品を手にとっていただくきっかけも様々。いかに効果的に情報を発信するかが、今後より大切になってくるのではないでしょうか。

藤田

大正製薬は「健康と美」をテーマに掲げ、総合ヘルスケアメーカーとして生活者のいきいきとした暮らしに寄与することを企業価値としています。女性をターゲットにした栄養ドリンクや発毛剤、インナービューティー、フェムテック関連の製品でお客さまの美をサポートしてきた歴史は化粧品へとつながるフックになり得るはず。大正製薬と聞いて名前が浮かぶ製品がいくつかあるかと思いますが、美容分野でも多くの方に愛されるブランドを生み出し育てることが今後の目標であり、研究員たちのモチベーションにもなっています。

研究者インタビュートップ

大正製薬
セルフメディケーション臨床開発部
グループマネージャー

藤田 透

入社以来一貫して臨床開発に従事。2020年よりグループマネージャーとして研究員を統括。
承認申請業務を担う薬制部の兼任経験がある他、日本OTC医薬品協会の薬制委員会での活動は現在も継続中。美容分野には参入時から携わる。趣味はサッカー観戦。

柱になるような化粧品ブランドを育てたい

マネージャーという立場から見たグループ内の雰囲気は?

20代を中心に若い部員が多く活気があり、風通しも良いように思います。とくに化粧品は年代別で悩みが異なり、QOL(クオリティー・オブ・ライフ)に関わる分野でもあるので、研究開発において社歴はそれほど関係ありません。
社会人1年目も20年目も一人の生活者ですし、経験値よりも一人ひとりの感性が活きる分野。遠慮せずに自分のこだわりを持って開発に携わってほしいと思っています。グループを統括する立場としては、相談でも雑談でも、気軽に話かけてもらえるような雰囲気を心がけているつもりです。

臨床開発の面白さとは?

臨床開発は研究ステップの中でも最終段階。担当した製品が店頭やECサイトに並ぶ姿を見た時は、やはり嬉しいです。
携わった製品で印象に残っているのは、リアップシリーズ。発育毛市場のフロントランナーとして、新しいニーズを見出し、価値を提案する役目があります。参入して間もない化粧品開発もそうですが、新しいことには困難が伴うもの。その中で、対応策を練り、仮説を立て、一つひとつハードルを超えていく過程にはやりがいを感じます。

研究にかける想いとは?

現在大正製薬の4大ブランドといわれるのが、リポビタン、パブロン、リアップ、ビオフェルミン。その他にも、医薬品・医薬部外品事業ではコーラックやVICKSなど、食品事業では機能性食品を扱うLivitaなど、様々なブランドがあります。これからの目標は、そのような大正製薬を代表するブランドを化粧品事業においても構築すること。製薬会社として長い歴史の中で培ってきた「治す」という強みを活かし、お客さまに愛されるブランドを作り育てていけたら。会社員人生で、それを果たすことができたら幸せですね。

大正製薬
セルフメディケーション臨床開発部

多田 静乃

医薬品、食品、化粧品など幅広く臨床開発に従事。ザ マイトル エッセンス等の開発に携わる。
最近お肌の曲がり角を実感し、日々SNS等でコスメ情報の収集に励む。

情報が溢れる時代、自分も使いたくなるような製品を

化粧品にはもともと興味が?

学生時代は薬学部に在籍し、身近な人に貢献できるOTC医薬品の研究開発に携わりたいという思いを持って大正製薬に入社しました。入社当初はプライベートでも化粧品にはそれほど興味がなかったのですが、年齢を重ねるにつれ肌の変化が気になるように。今では医薬品以上に身近な研究対象です。
化粧品は医薬品に比べると自由度が高く、やってみないとわからないことも多い分野。仮説通りの結果が出たときは嬉しいですし、やりがいを感じます。

コスメ情報は業務にも活きていますか?

私自身、美容情報はSNSやYouTubeでチェックすることが多いのですが、一般のお客さまもかなり調べてから購入する方が多いように感じます。お気に入りコスメの投稿などを見ると実感するのが、パッケージや香りなど気持ちが上がるような付加価値の大切さ。毎日見て触れるものなので、心がワクワクするものを選びたくなる心理はいち生活者としても共感できます。
そういった中で手に取ってもらうためにも、効果だけでなくトータルで魅力的な製品作りを目指さなければと思います。

研究にかける想いとは?

研究者としては、これまでにない効能効果を見出したいという思いは常にあります。
現在毛穴やシミなどの悩みを確実に解消してくれる製品はなく、化粧品で叶えられることにも限界はあります。しかし医薬品開発で培った開発力によって、これまでにない効果を持った製品を生み出すことが可能になるかもしれない。その時、臨床開発に課されるのは、その効果をどう評価するかということ。製品化が叶った際には、真っ先に使ってみたいです。