トライ&エラーを繰り返してコンセプトを形に
製剤第3研究室の役割について教えてください。
高田
お客さまが実際に肌につけるモノを作っているのが製剤第3研究室です。
ニーズや効能効果などから立案したコンセプトを製剤という化粧品の形にしていくことが主な役割。配合成分や配合比率などを検討する製剤設計から、実際に工場で大量に製造するためのスケールアップテストまでを行います。
どんな工程で進めるのでしょうか?
緒方
最初に行うのは、配合成分の選定です。肌につけるものなので効果だけでなく使い心地や安全性にもこだわって厳選します。その後、目指す効果や使用感になるように配合し、安定性や安全性などを確かめながら、いくつものステップを踏んで製剤を完成させます。
業務の中で多くを占める試作はトライ&エラーの繰り返しですが、ゼロから製品を作り上げることができるのは大きなやりがいです。
高田
浸透しにくい成分を肌にどのように届けたら良いか、うるおいを発揮させるためにはどんな設計にしたら良いか、といった効果実感を叶えるための検討も製剤設計における大切な要素。日ごろから技術の向上に向けて取り組んでいます。
医薬品の開発経験をベースに感性にも訴えかけるアプローチ
医薬品開発と化粧品開発では、どんな違いがありますか?
高田
美容分野の研究がスタートした当初は、化粧品開発に求められるスピードの早さに戸惑うこともありました。時間をかけて数多くの検討を一歩一歩積み重ねていく医薬品開発のスタイルを当然の事だと思っていましたので、発売後たった1〜2年でリニューアルすることもあるような化粧品開発のスピードには慣れるのに苦労しましたね。
緒方
医薬品には治したいところに効かせるというはっきりとした目的がありますが、化粧品のゴールである美しさの基準は人それぞれ。医薬品開発以上に、お客さまにどんな価値を提供するかを明確にする必要があります。
医薬品の技術はどのような形で活かされていますか?
高田
塗り薬は、成分を血中に届けたいもの、角層に届けたいものなど疾患によって異なり、確実に届くよう製剤を設計します。スキンケアに関しても、なりたい肌によって適切な場所に届けることが大切。成分を届けたい場所へと届ける技術には、皮膚の構造特性を理解して医薬品開発をしてきた経験が役立っています。その他にも、効果を見極めるために欠かせない成分の分析技術、長期間効き目を保つための安定化技術なども化粧品へと応用しています。
その背景にあるのは、毎日使うものだからこそ安心して使っていただきたいという想い。医薬品開発で培ってきた大正製薬の厳しい品質基準をクリアしたものだけを世に送り出しています。
竹内
「本物の効果実感とはなんだろう」ということを追求する姿勢も、ヒトの体にどう効くのかを真摯に突き詰めてきた医薬品研究から受け継がれたもの。イメージ重視ではなく、遺伝子レベルの研究から臨床試験での安全性・有効性の確認など、科学的なアプローチを欠かすことはありません。その点は大正製薬の強みではないでしょうか。
新しく取り入れたアプローチなどはありますか?
竹内
手にとった時に違和感があれば、それを肌につけるということはしてもらえません。スキンケア製品にとって感触はそれほど大切な要素。有効成分を届けるだけでなく、どんなテクスチャーが心地よいかというところも試行錯誤して研究しています。
製剤設計は必ずしも理論的なアプローチで目指すテクスチャーにたどり着けるわけではなく、科学では捉えきれない差を魅力に感じたり、わずかな成分比の微調整で感触が変わってしまうことも。職人のような繊細な感覚が活かされるのも化粧品ならではかもしれません。
高田
化粧品は改善したい症状がなかったとしても毎日使っていただきたいものなので、お手入れの時間が楽しくなるような心が基点となるモノづくりを大切にしています。心地いい、好きだな、といった漠然とした感覚に対して、心理学的なアプローチなども取り入れたいとも考えています。また、感性研究の成果が学会で発表されることも多く、美容分野の研究がスタートしてからはそういった医薬品以外の分野からも学びを得るようにしています。
竹内
スキンケアには、効く効かない、心地よい心地よくない、好き嫌い、など判断基準も無数にあるため、目指すゴールを明確にしておかないと完成にたどり着けない難しさがあります。
試作検討を積み重ねる中で、つい「多くの方に好かれる製品を」という思いが芽生えがちですが、そういった時はコンセプトに立ち返るようにしています。誰に何の目的で使って欲しいのかを深堀し、それを最も叶えてくれるものが目指す答え。だからこそクチコミで、「私のための商品だと思った」といった声を聞けると、届けたい人に届いたのだとやりがいを感じます。
緒方
ユーザーの方から直接声を聞く機会を積極的に持つようにもなりましたよね。実際に使っていただいている方からお話をうかがい、製品の印象や使い心地などどう感じているかを聞くことで、感性の理解の参考にしています。皆さまからいただいた声を活かし、期待感や実感につながる改良を重ねています。
肌にも心にも共感してもらえるモノづくり
大正製薬の美容分野研究で大切にしていることは何ですか?
緒方
大正製薬では以前から皮膚用薬を手掛けており、疾患とまではいえない皮膚の悩みも多く見てきました。そういった幅広い皮膚研究の知見、医薬品開発ノウハウ、臨床試験など、これまで培ってきたことを融合することで私たちにしか作ることのできないスキンケアをお届けできると思っています。
これまでの医薬品分野の研究経験の中には、化粧品開発へと活用できるものがまだまだ眠っているはず。どんな製品が求められていくか未来へも敏感にアンテナをはり、新たな価値を追求していきたいです。
竹内
健やかさという土台があってこそ、美しさは育まれるもの。ビューティーだけでなくヘルスケアに長年取り組んできた歴史は大きな強みです。
エビデンスに裏付けられた皮膚への効果を真摯に追求する姿勢は変えることなく、感性など化粧品分野に不可欠な新しい視点をプラスしていくことで、「使った瞬間心地よい。だから明日もまた使いたくなる。使い続けるうちに確かな効果を実感する」といった体験をお届けできるのではないでしょうか。
高田
そしてゆくゆくは、ブランドを好きになってもらうことを目指したいですね。大正製薬が長く販売しているOTC医薬品の中には、愛着を持って名前で覚えていただいている製品も多い。スキンケアでも同じように、多くの人にファンになってもらいたいです。
肌だけでなく心にも響く製品作りを目指し、テクスチャーや香り、容器など、感性の部分の研究にも一層力を入れていきたいと思っています。