~ミトコンドリア機能維持に着目した
エイジングケア研究~
2021.06.30
大正製薬株式会社(以下、当社)は、学習院大学:柳茂教授と共同で、ミトコンドリアに存在する酵素マイトリガーゼと、肌老化のメカニズムの関係を解明する研究を行ってまいりました。その結果、下記のような世界初の研究成果を見出し、「The 31st IFSCC Congress 2020 YOKOHAMA 」(国際化粧品技術者会連盟学術大会)にて発表しました
主な研究成果
エイジングに伴うマイトリガーゼ減少を防ぐことで、ミトコンドリアネットワーク形成を促し、ミトコンドリア機能と細胞機能が維持され、ハリと透明感に満ちた躍動感あふれる肌を維持することが期待できます。当社はマイトリガーゼを細胞の若返りの鍵と考え、今後もマイトリガーゼ研究を継続していきます。
さらに、今回の研究成果から明らかになったマイトリガーゼによるミトコンドリア機能の維持に着目し、エイジングケア商品の開発に応用してまいります。
ミトコンドリアは生命活動に必要なエネルギーを合成する細胞小器官です。近年、ミトコンドリアの様々な機能が見出され、ミトコンドリア機能異常が老化や様々な疾患の病態と関連することが明らかになりつつあります。
マイトリガーゼは細胞のエネルギーを生み出すミトコンドリアに存在する酵素で、2006年に柳教授(学習院大学)が発見しました。マイトリガーゼはミトコンドリアの働きに深く関わり、アルツハイマー病や心疾患などへの関与が明らかになっています。しかし、肌におけるマイトリガーゼの役割はわかっていませんでした。
そこでまず、肌の透明感やうるおいに重要な表皮形成に及ぼすマイトリガーゼの影響を検討しました。その結果、老化した細胞ではマイトリガーゼ量が明らかに減少していることがわかりました(図1)。また、マイトリガーゼを減少させる処置を施した肌細胞から表皮構造を形成させると、老化した肌でも認められるような厚く粗い構造となっていることが確認されました(図2)。これらのことから、老化によってマイトリガーゼが減少し、表皮形成異常が生じている可能性が示唆されました。
肌細胞の継代を繰り返し、細胞の老化を誘導し、マイトリガーゼタンパク発現量を評価した。継代数が増えるに従って、マイトリガーゼタンパク発現量(黒色バンド)の減少が確認された。Tublin:内在性コントロール(発現量が一定で普遍的に存在するタンパク質)として一般的に使用される。
マイトリガーゼが減少した細胞から表皮構造を形成させ、顕微鏡で観察した。正常時(コントロール表皮)と比較し、マイトリガーゼ減少表皮では厚く粗い構造となっていることが確認された。
細胞の中には「ミトコンドリア」という細胞内小器官が存在しています。ミトコンドリアは体重の10%を占めるといわれ、また細胞の活動に必要なエネルギーの大部分を生み出しているため、ミトコンドリアの働きは非常に重要です。しかし、ミトコンドリアからは、エネルギー産生の副産物である有害な「活性酸素」が同時に発生します。通常、活性酸素は細胞に備わっている抗酸化機能の働きにより除去されますが、活性酸素によるダメージがミトコンドリアに蓄積すると、ミトコンドリア機能が低下(エネルギー産生効率低下・活性酸素増加)していきます(図3)。
ミトコンドリアはエネルギーを生み出す一方で、有害な活性酸素も同時に発生する。活性酸素によるダメージはミトコンドリアに蓄積し、ミトコンドリア機能が低下する。
また、ミトコンドリアは細胞内において常に動きまわり、様々な形態変化をおこしています。これは「ミトコンドリアダイナミクス」と呼ばれ、ミトコンドリアや細胞の様々な機能と深く関わることが明らかになってきています。例えば、健全なミトコンドリアは相互にネットワーク状となり、エネルギー産生効率や細胞活性を高めますが、ネットワークが形成できないとエネルギー産生が低下し有害な活性酸素が増えると報告されています。
マイトリガーゼはミトコンドリアダイナミクスを制御することが報告されていることから、マイトリガーゼ減少による肌の老化メカニズムを解明するために、ミトコンドリアダイナミクスおよびミトコンドリア機能を評価する実験を行いました。
~マイトリガーゼが減少した肌細胞ではミトコンドリア機能が低下~
まず、肌細胞のミトコンドリアの状態を顕微鏡で観察しました。肌細胞のマイトリガーゼが失われた状態を作った結果、ミトコンドリアネットワークがバラバラにちぎれること(断片化)が確認されました(図4)。さらに、マイトリガーゼが失われたことによって活性酸素種量の増加も確認されました(図5)。これらのことから、マイトリガーゼが減少した肌細胞ではミトコンドリアダイナミクスの破綻とミトコンドリアの機能低下が引き起こされていることが確認されました。
肌細胞のミトコンドリアを緑色に染色し、顕微鏡で観察した。正常時(コントロール細胞)ではミトコンドリアが融合し紐状に繋がっている様子が確認されるが、マイトリガーゼ減少細胞ではミトコンドリアが断片化しネットワークが失われている様子が観察された。
マイトリガーゼが減少した細胞の活性酸素種量を評価した。正常時(コントロール細胞)と比較し、マイトリガーゼ減少細胞では活性酸素種産生量の上昇が確認された。
我々の見出した結果から、老化によるマイトリガーゼ減少を引き金として、ミトコンドリアネットワークの崩壊が引き起こされ、それに続いてミトコンドリア機能の低下、細胞機能の低下、表皮形成異常が生じる可能性が示唆されました。また、マイトリガーゼが減少した細胞において、シミに関わるPAR2遺伝子やシワに関わるCOL1A1遺伝子の発現量の変動も確認されています。つまり、老化によるマイトリガーゼ減少が乾燥、シミ、シワに繋がる可能性が考えられました。
我々は「マイトリガーゼ」を細胞の若返りの鍵であると考えています。今後も継続的にマイトリガーゼ研究を続け、その成果をミトコンドリア機能維持に着目したエイジングケア商品の開発に応用していきます。